東京高等裁判所 昭和53年(ネ)246号 判決 1979年9月03日
控訴人
藤原和男
右訴訟代理人
伊礼勇吉
外二名
被控訴人
桑原四郎
右訴訟代理人
榎本逸郎
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一<証拠>を総合すると、請求原因一記載の各事実を認めることができる。
二<証拠>を総合すると、
控訴人は昭和四八年秋宅地建物取引主任者の資格を取得したが、昭和五〇年六月ごろ、控訴人がかつて勤務していた建売住宅の建設及び販売を営む秩父建設において知合つた田谷俊一から、倉掛正憲が住宅の販売業をやるので、同人に取引主任者の名義を貸与して欲しい旨頼まれてこれを承諾した(控訴人が倉掛正憲個人に名義を貸与したことは当事者間に争いがない)ところ、倉掛正憲は訴外会社を設立して、訴外会社をして控訴人を取引主任者として宅地建物取引業の免許を得せしめ、土地売買契約書及び物件説明書に取引主任者として控訴人の名義を表示し、本件取引を行つた。控訴人は取引主任者が第三者に名義の使用を許して取引を行わせることは、宅地建物取引業法上違法とされていることを熟知し、また倉掛正憲の人柄からして、同人が誇大広告程度の不正行為を行うのではないかと予想しながら、同人に自己の名義を貸与したものである。
以上の事実が認められ、さらに倉掛正憲個人に取引主任者の名義を貸与するときは同人は会社を設立し右会社をして控訴人の名義を利用し、宅地建物取引業を行わしめるであろうことは通常予想されるところである。してみると控訴人は倉掛正憲が会社を設立し同会社をして違法な取引行為を行わしめることがありうることを予想しながら、同人に取引主任者の名義を貸与するという違法行為をなして訴外会社をして控訴人の名義を利用することによつて営業免許を取得させ、もつて被控訴人に対する前認定の不法行為をなすことを容易ならしめ、被控訴人に四五〇万円の損害を与えたものというべきであるから、控訴人もまた共同不法行為者として右損害を賠償する責任があるものといわなければならない。
三<証拠>によると、被控訴人は本件訴訟を追行するため弁護士に依頼し、既に着手金一〇万円を支払い、かつ本件勝訴判決確定のときには謝金として四〇万円を支払うことを約したことが認められるところ、右金額は本件事案の体様、難易、認容額など諸般の事情を考慮すると、被控訴人の損害として控訴人の賠償すべき弁護士費用として相当額である。
四そうすると、控訴人は被控訴人に対し、右損害金五〇〇万円及び内四六〇万円に対する支払期日後である昭和五一年八月六日から、内四〇万円に対する本判決確定の日から各完済に至るまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるが、その余の義務のないことが明らかである。
五よつてこれと同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(綿引末男 田畑栄彦 寺澤光子)